青いネックウォーマー

月曜日の朝、次男は機嫌よく出かけるはずだった。

次男は、カッコよく青いジャケットを着て、ポーチを肩にかけて、


“あれ!?”


青いネックウォーマーがない!!


次男は表情を変えて、青いネックウォーマーを探すけれど、見つからない。
なんでだ!
家の中にあるはずだ。
昨日、円教寺から帰ってからは、ずっと家にいるのだから。


“わぁ!マズイ!次男はあるべきものがないと気持ちが落ち着かなくなる人だから。“

次男は、私の顔を見て察したのか、動揺を押し殺して、なにも言わないで屋外階段を下りて行った。
お気に入りのネックウォーマーがなくて落ち着かないことよりも、定時に出かけたい気持ちが上回ったらしい。

可哀そうなことをした。






もう一度、次男がしたように、次男のベッドをひっくり返してみた。
青いネックウォーマーがポトンッ!と小さな音を立てて床に落ちた。
あ! あった!!
でも、今から次男を追いかけても、追いつく訳がない。

次男は、通勤の間中、ネックウォーマーがないことが気になっているだろう。
作業中は、忘れているだろうか。
終業後、自分のマンションへ帰るまで、気になっているだろうか。

私も出勤しなくてはならない。
朝に、次男の通所する作業所に届けてやる時間が取れないので、終業後に次男のマンションに届けることにした。


理由を作って、いつもよりもすこし早い時刻に事務所を出た。
次男のマンションの最寄りの駅に降りて iphone でマップを頼りに歩いていくと、進行方向の次の交差点に次男の姿があった。

え!? なんと!


次男は小さい声で歌いながら、足踏みをしているようだ。

なんで????

信号待ちをしているのだ。
少しうつむいて、リズムをとっているように見える。
次男の姿は、私が思っていた次男の歩く様子とは違っていた。
信号が緑に代わって、次男は横断歩道を渡った。

時々、次男の携帯電話がかってに発信してくるときがある。
次男が、ザッ!ザッ!ザッ! と勢いよく歩く足音が聞こえてくる。
ルンルンの様子で、鼻歌というよりも、もっとハッキリと聞こえる声で歌いながら歩いている様子が聞こえる。

そのイメージと、今、見ている次男のイメージが大きく違っている。

次男は、すこしゆっくり歩いているようで、顔が少し俯いているように見えた。
肩がションボリしているように見える。
街灯が暗くてそう見えるのだろうか。


次男は私に気が付かない。
私がここに居ることは、想定外のことなので、たとえ、次男の視界に私の姿がチラリと入ることがあっても、次男は気がつかないだろう。
自閉症の次男には、そういう特徴がある。
予想外の場所で、予想外の人に遭うと、意識の外に放り出してしまうらしい。
とても気持ちが悪いのかもしれない。
声を掛けていただいたのに、「きゃぁ!」と悲鳴を上げて、逃げてしまったことがあった。
声をかけてくれた人は、大ショック!!
次男はそんな人です。


次男は、次男のテミトリーの外では、こちらの姿なのかもしれない。
私が見ることがない次男の姿を、偶然にも、今、見ている。



次男に声をかけることができないまま、後ろ姿を追いかけた。
次男を残して、私が先に行かねばならない運命は変えようがない。
これから何十年という年月を経ようとも、幼いままの次男を残して先に居なくなる酷さ。


次男がマンションに帰って部屋に灯りを付けた。
カーテンの隙間から灯りがもれる。

次男のマンションのオートロックなので、ヘルパーさんが来るまで待っていて、ネックウォーマーを渡そうと思った。
ところが、周囲を見回して、不審者と思われそうと気が付いたので、思い切って部屋番号とベルを押してみた。
次男はきっと不審に思うだろうなぁ。。と思いながら、「次男くん、おかあさんです。開けてください。」と言ってみた。
「え!?」次男は、思いっきり不審そうな声で返答した。


“マズイよなぁ”
この状況は、童話の「狼と7匹の子ヤギ」に似ていると思った。
次男、開けてくれないかもなぁ。。



タタタッ!と足音がして、次男がフロントドアを開けた。


“あれ!?次男くん、ここまで出てきたの!?自分ちのドアが自動で締まってないかい???”


「じ、次男くん、お母さん、コレ、見つけたよ。ベッドの下にあったよ。」
驚いたのと、心配なのとで、私の声がひっくり返ってしまった。

次男は、 ネックウォーマーを受け取って、「あったんだぁ~~!!!」
と、これまた、声変わりしたことが信じられないほどのかわいい声をだして、嬉しそうな顔をした。


次男が喜んでくれて、よかった。
しかし、それよりも、次男の部屋の玄関ドアが施錠されていないかを確かめたかったので、「次男くん、次男くんのお部屋にはいってもいい?」と訊いてみた。
次男は軽く、「ふん。」とも「うん。」とも聞こえる返事をしてドアを開けてくれた。
ドアは施錠されてなかった。
よかった。
玄関には柔らかいフレグランスが漂っていた。

次男の部屋は、ピカピカ状態から始まったので、今も、たぶんこれからもピカピカのままだろう。
ゴミひとつ、落ちてない気配。
もしも、各部屋を見て回ったら、私の自宅と比べてしまって、私が自己嫌悪に陥ると思われるので、玄関で失礼することにした。


帰路も、帰宅してからも、火曜日になっても、次男が小さい声で歌いながら、信号待ちをしている様子がずっと頭から離れない。

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テーマ : 自閉症
ジャンル : 福祉・ボランティア

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プロフィール

Protea Mama

Author:Protea Mama
7年余、楽天ブログを書いていました。いろいろな機能が終了になるということなので、FC2ブログに移動しました。楽天ブログには「フリーページ」があります。大変ありがたい機能ですので、楽天ブログも大事に置いておこうと思います。良かったらご覧ください。

私が「障害児の親になったのだ。」と気づいた頃は、情報を得ることが難しくて、子の将来の姿も、自分の将来の姿も想像できませんでした。どんな未来が待っているのか、不安で不安で。だれか、知らせて。だれか、見せて。。。と誰かをつかまえて訊きたかったのです。だから、今の次男の様子を書いておこうと思います。それを読んで、ガッカリする人もあるかもしれません。安心する人もあるかもしれません。ともかく、私達は今、生きています。親子無理心中事件は起こしませんでした。これからもないことを願っています。次男は、コロニーや施設ではなくて、街中で生活して、成人して、やがては老いていく初めての世代の障害者だと思います。どんな生活が有り得るのか、親亡き後の次男の生活は幸福なものになるのか。次男に親を独占されて、すね気味に大人になってしまった長男を真に解放してやることができるのか。。手探りの毎日です。

希望は強い勇気であり、新たな意志である。

すべてのことは、願うことから始まる。

どちらの言葉も、マルティン・ルター の言葉です。
私はクリスチャンではありませんが、とても良い言葉だと思います。

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